※高城未来研究所【Future Report】Vol.734(7月11日)より
今週は、サントリーニ島にいます。
エーゲ海に浮かぶサントリーニ島は、白い家々と青いドーム屋根、断崖絶壁に広がる街並み、そして世界一とも称される夕陽で知られるギリシャ屈指の観光地です。
近年は「インスタ映え」の象徴としても注目を集め、ヨーロッパのみならず世界中から観光客が押し寄せています。
サントリーニ島の歴史は、紀元前5000~4000年にさかのぼります。最初の定住地はアクロティリで、紀元前3600年頃にはミノア文明が到来し、エーゲ海交易の要所として発展しました。
特に銅の加工や貿易で栄え、舗装道路や排水システム、高品質な陶器の生産など高度な都市文明が築かれました。
しかし、紀元前16世紀の大噴火によってアクロティリは火山灰に埋もれ、ミノア文明も衰退。サントリーニ島はその後、フェニキア人やドリア人、ローマ帝国、ビザンチン帝国、ヴェネツィア、オスマン帝国と支配者を変えながら、独自の文化を育んできました。1821年にはギリシャ独立戦争を経て、ギリシャ王国の一部となります。
現在、サントリーニ島は欧州一の観光地として名高くなりましたが、その理由は、SNSで拡散される「映える」点にあります。
断崖に広がる白と青のコントラストが美しい街並みと、そこから望むエーゲ海の絶景は、どこを切り取っても絵になります。また、イア地区の古城跡から眺める夕陽は「世界一美しい」と称され、日没時には多くの観光客が集まります。
結果、この10年は完全なオーバーツーリズム状態になり、島人口1万2000人にたいして年間観光客数が340万人を超え、ピーク時には島人口を超える1日1万5000人ものクルーズ船客が押し寄せることもあり、多くの問題が生まれています。
この急激な観光客増加は、交通渋滞・騒音・ゴミ問題などが多発し、ゴミの処理や水資源の確保も限界に達しています。
あわせて家賃や物価の高騰、生活空間の侵食、若者の島外流出など、地元住民の生活の質が損なわれているのが現状です。
このため、今年からはクルーズ船での観光客数を制限するなど、観光客数の上限設定や新たな課税制度が導入されました。
また、10年近く前にリリースした自著にも書きましたように、島内のタクシーはわずか35台前後しかなく、ピークシーズンにはほとんど捕まらない状況が続いています。
配車アプリも普及しておらず、バスも本数が少ないため、移動は至難の技です。
このような状況下にあるにもかかわらず、本年初頭、群発地震が発生。1月末から2月初旬にかけて1000回以上の地震が観測されました。
最大マグニチュード5.2の揺れも記録され、ギリシャ政府は非常事態を宣言。1万人以上の住民や観光客が本土へ避難し、学校の休校や港湾・危険地域への立ち入り制限、陸軍・消防隊の配備など、緊急対策が講じられました。
当局は、古い建物や崩壊の恐れがある場所への立ち入り禁止、地滑りや津波への警戒、沿岸部からの迅速な避難などを呼びかけています。
地震学者のレミー・ボッスは、「地震活動はまだ終わっていない。これまでで最大の地震がまだ来る可能性がある。この夏は十分な注意が必要」と警告しており、これにより観光業への影響は大きく、今年の夏の予約は前年比23%減少する見込みです。
しかし、この島の人々の問題は地震ではありません。
本来なら地震を機に島外でも収入を得る手段をいまのうちに見つけることなのでしょうが、一度味わってしまった安易な観光業を手放すことができないメンタリティにあるように思えてなりません。
このような未来は日本でも充分考えられる現実です。
防災以上に気を配らなければいけない、新しい仕事。
これを準備するか否かによって人生は大きく変わるのだろうなと考える今週です。
高城未来研究所「Future Report」
Vol.734 7月11日発行
■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 大ビジュアルコミュニケーション時代を生き抜く方法
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。


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